フィリピン妖怪界の女王、マナナンガル。
虫も殺さぬ清楚な美女が、耳まで避けた口を持つ「人喰い妖怪」に変身するという、この著しいギャップが売りのマナナンガルは、フィリピンのホラー漫画でもいろいろな形でよく題材に取り上げられる。(ちなみに「マナナンガル」とはタガログ語で「切り離す、はずす」といった意味を持つ)
日中は我々人間と寸分違わぬ姿で生活しているが、夜になると凄まじい形相に変貌し、デビルマンのように背中からこうもりの翼を生やし、腰から下をバリバリッと切り離して、獲物を求めてばっさばっさと夜の空を飛び回る。
同じく首から下を切り離して空を飛ぶ日本のろくろ首を連想させるが、彼らの血縁関係、因果関係については明らかにされていない。
ろくろが先か、マナナが先か?
これは日本とフィリピンの妖怪界の関係を究明する上での、ひとつの手がかりとして、今後突きつめていきたいと思っている謎のひとつじゃ。(といっても、ただ思っているだけじゃ。実際に行動に起こすことは期待しないように)
さて、話を元に戻そうかの。
恐ろしい妖怪に変身し、草木も眠る深夜の空を彷徨う「上半身だけのデビルマン」マナナンガルの目的は何か?
言うまでもなく、「飯(めし)」じゃ。
飯とはいっても、ジョリビーのクリスピーなフライドチキンや、アイムアンガスのジューシーなステーキなどではない。彼女が求めるのは、妊婦の胎内に眠る生きた胎児なのじゃ。
フィリピンのど田舎でよく見られるニッパハウス(藁葺き屋根の家)の梁に取り付き、天井からアリクイが持っているような長ーい舌をするするとたらして、何も知らずにすやすやと眠っている妊婦の臍(へそ)から胎内に挿入し、中の胎児をすすり喰らう。
天井から舌だけを使って、どうやって胎児をすすり食らうのか?
さらに、下半身がない状態で食事なんかして、食べたものが切り離された腸の先っぽからこぼれてしまわないのか?
諸君の疑問はごもっともじゃな。しかし相手は我々の想像を絶する世界に生きる妖怪。人間界の常識など通用しないのじゃ。
さて、食事が終わってお腹いっぱいになったマナナちゃんは、夜が明けぬうちにばっさばっさと、もと来た道(空?)を舞い戻り、家に置いてきた下半身と再び合体して、何食わぬ顔で(本当は食ってきた後なのだが)日常生活に戻る。
「夜が明けぬうちに」というのは、彼女は日光が大嫌いだからだ。下半身と切り離された姿のまま日の光に当たると、全身が炎に包まれて死んでしまう。
同じく日の光が大嫌いな吸血鬼ドラキュラ伯を連想させるが、彼らの血縁関係、因果関係については明らかにされていない。
ドラが先か、マナナが先か?
これはイギリスとフィリピンの妖怪界の関係を...
しつこい!とお叱りを受けそうなので、ここらへんでやめておこう。
さて、この胎児の敵マナナンガルを退治する術はないのか?実はあるのじゃな。
上半身が飯を食らっている間、置いてけぼりを食らって一人(半人?)ぽつんと部屋の隅に佇んでいる下半身の、ちょうど上半身から切り離されて内臓が剥き出しになっている部分に、「塩」をふりかければいいのじゃ。
ふりかける塩は、諸君が普段料理に使っている普通の塩でも、マッサージ屋さんで使われている死海の塩でもなんでもいい。ただし、間違って味の素なんかをふりかけたりすると、かえって食欲が旺盛になってしまう恐れがあるので注意が必要じゃ。
こうすると、マナナンガルは下半身と合体することができなくなり、やがて差し込んでくる日の光によって無残な焼死体と化す。
これは、日本と同様、塩には「穢れを清める」効果があると信じられていることに由来するのじゃろう。また、「下半身をいじる」という点においても、下半身を隠されると戻るべき場所を失ってやがて死んでしまう日本のろくろ首に通じるものがあり、ここでも日本との共通点が見え隠れする。もしかしたら、マナナンガルは英語やタガログ語はもちろん、日本語も流暢に話すトリリンガルな妖怪なのかもしれん。
そういった意味でも、マナナンガルは我々にとって最も親しみやすい妖怪の一つなのじゃ。
美しくも悲しい運命を背負ったマナナンガル。それは今、ジープニーの客席に座るおぬしの横で、運転手にむかって「パーラ!(停めてちょうだい!)」とか言っているかわいい女の子かもしれないのじゃ...ひひひ...。
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