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マリキナ市「悪魔の道」の伝説
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マニラ首都圏16市の一つ、マリキナ(Marikina)。別名「フィリピンの靴の都」と呼ばれておるほど靴産業が発展しとる都市で、ギネスブックに記録されとる世界最大の靴を作った場所じゃ。世界で最も靴のコレクションが多いと言われとるシュー・ミュージアム(Shoe Museum)には、イメルダ・マルコス元ファーストレディーの有名な靴コレクションも展示されとる。


さて、靴とは全然関係ないのじゃが、ここマリキナ市にはひとつの伝説がある。今回はそれを紹介しよう。


昔、マリキナ市のマランダイという土地に、マリキタちゅう名の美しいおなごが、田んぼの真ん中に建つ小さな家に親と住んでおった。その愛くるしい容姿は村の男たちをことごとく魅了し、ツイッターやフェースブックでも「田んぼに住んでる女の子が美人すぎる件」とかいうて紹介されるほどじゃった。

マリキタちゃんの家は、村の表通りからかなり離れた辺鄙なところにあったのじゃが、それでも彼女との結婚を夢見る多くのミツグ君たちが、足を泥だらけにしながらせっせと通いつめとったそうじゃ。

こうしたけなげな男たちが田んぼの泥で靴をダメにし、そのつど買い換えとったので、靴産業が発展した…のかどうかは知らん。

マランダイきっての資産家の跡取り息子カバナランも、マリキタの美しさに心を奪われた者の一人じゃった。その辺の泥臭い若者には到底望むべくもない育ちの良さ、甘いマスク、そして純粋で優しい心を持った若者じゃった。ただ、裕福層に身を置き、何不自由ない暮らしをしとるからかどうか知らんが、世間知らずで気前が良すぎるのが玉に瑕じゃった。

ルックス、性格、金、地位。モテる男の条件を全て備えたカバナランじゃ。言い寄ってくる女性もさぞ多かったことじゃろう。他の若者よりもはるかに多くの選択肢があったに違いない。

そんな彼がマリキタに一目惚れし、我を忘れた。

「自分は跡取り息子として大事に育てられ、両親から何でもかんでも与えられてきましたが、心の底から『欲しい』と思ったのは、後にも先にも彼女が初めてでした」とカバナラン君がワシとの独占インタビューでも言っとった。

一方、マリキタちゃんもカバナランに好意を寄せ、彼の積極的なアプローチを受け入れた。早い話が、付き合い始めたっちゅーこっちゃ。

で、ある日、付き合い始めてまだ数ヶ月だっちゅーのに、カバナラン君ったらいきなりマリキタちゃんにプロポーズしよった。

「ああ僕の愛しいマリちゃん!僕はもう君なしには生きていけない。欲しいものは何でもあげよう。だからお願いだ、僕と結婚してくれ!」

「何でもあげる」じゃと?出たな。気前の良すぎる彼の悪い癖が。ワシじゃったら即座に「じゃ、ランボルギーニ・レヴェントン買ってくれ」と言っとるところじゃ。ちゅーか、「何でもする」と言うところを「何でもあげる」と言うところに、金持ちの坊ちゃんならではの傲慢さを感じるの。本人はたぶん意識しとらんとは思うが。

意地汚いワシと違って、マリキタちゃんは別に何もくれなくてもプロポーズを受け入れるつもりじゃったらしい。が、「何でもくれてやる」と言われてちょろっといたずら心が働いのか、はたまたプロポーズされた照れ隠しのつもりか、笑みを含めた口に手を当て、いたずらっぽい目で相手を横目に見やりながら、こう言った。

「そうねえ…私の家って、あんな辺鄙なところにあるでしょ?田んぼのあぜ道に足を取られて毎日通りまで出るのが大変なのよね。明日の朝までに家から通りまで一直線の石畳の道を作ってくれたら、その場で結婚してもいいわよ?」

もちろん、軽い冗談のつもりで言ったことじゃ。本当に作って欲しいとはぜんぜん、まったく思っておらん。一晩で何メートルもの石の道を完成させろなんて、そんな無茶なことが出来るわけがなかろう。誰だってジョークとわかるじゃろこんなの。

しかし、マリキタちゃんは彼の性格を完全に読み違えた。すぐに「ウソウソ!冗談よ!もーすぐ本気にするんだからカバちゃんは」と言うてやればよかったんじゃが、いかんせん交際期間が短すぎた。相手が「あはは、いやーまいったなー。さすがに一晩は無理だよ。2週間で手を打たない?」とか言って合わせてくれるとフツーに思っとったんじゃ。

ところが、純粋で世間知らずのカバナラン君は、自分の真摯なプロポーズがまさかジョークで返されるとは夢にも思わなかったんじゃな。「道を作れば、道さえ作れば、マリちゃんが僕のものになる!」彼にとってはそれが全てじゃった。可能か不可能か、そんなことはどうでもよかった。

「よし!絶対作ってやるよマリちゃん!約束する!」唇をわななかせ、必死の面持ちで何が何でもやり遂げる決意を示すカバナラン君。「がんばってね~。明日の朝6時までだからね!」とのんきに笑い、タイムリミットまで設定して追い討ちをかけるマリキタちゃん。お互いの大いなる勘違いにまったく気づくことなく、その日のデートは終わりを告げた。実はこれが二人の不幸の幕開けだったのじゃが、二人には知る由もなかった。



 
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