ボクの住むブラカン州の住宅地では、通りから通りへいろいろな人たちがいろいろなものを売りに来ます。
野菜、果物、魚、パン、スイーツ、アンテナ、リモコン、アイスクリーム...
家の中にいる住人たちに自分が来たことを知らせるため、掛け声、ベル、メロディー、メガホンなど、様々な伝達手段を駆使して自己アピールに努めています。
ま、売り物を買ってもらうための営業努力として、当然といえば当然のことなのですが。
しかし!そんな営業努力を一切行わず、文字通り「黙々」と品物を売り歩いている異色の売り子さんがいます。
その名も「カレン・ピザ」屋さん。
売り物のピザたちとオーブンを載せたサイドカー付きの自転車をこぎながら、黙って静か~に敷地内を徘徊しています。
午後の昼下がりに突如迷い出た浮遊霊のごとく、ひたすらひっそりと... まるでピザが売れるのを恐れるかのように...
カレン・ピザはとても素朴な見栄えと味を持つピザです。マカティで売られているような、分厚いパン生地にトッピングたっぷりのやつではありません。サクサクッとした食感の薄っぺらいパン生地、甘ったるいソース、トッピングといえばソーセージとミートローフらしきものの薄切りで、そこにチーズがパラパラっとかかってる。
中身がそんな感じで、お値段は一箱55ペソ。安っ!...でもないですね...身分相応というか。
メニューも一種類だけで、すぐに飽きが来る味なのですが、時々無性に食べたくなる時があります。
でも、食べたい時にいないのがカレン・ピザの魅力。「失くし物というのは、血眼になって探している時ほど見つからず、もうどうでもよくなって忘れかけた頃にひょっこり出てくるものだ」といいますが、ホントそんな感じです。決して探し求めてはいけない。あわてず騒がず当てにせず、ホラー映画の幽霊のように視界の隅にフワッと映ったところをパッと捕まえなければいけない。それがカレン・ピザ。
なので、運よく巡り合えた時の嬉しいこと。ピザのうまいこと。あっやべっ!ひょっとしてそれが狙い?巧妙な営業戦略にまんまとはめられたってわけですかボクは?
でもね、やっぱり食べたいときに食べたいっていうのが人情というものですよ。そうでしょ?
そこである日、ボクはピザ屋さんに言いました。
ボク「おたくの姿を視界の隅に捉えるのって、けっこうテクニック要るんですよね」
ピザ屋さん「・・・」
ボク「ほら、他の皆さんもそれぞれ自己主張されてるじゃないですか。声張り上げたり、プカプカ音立てたり。ああいった売り子としての努力って大事だな、と思うんです」
ピザ屋さん「・・・」
ボク「そしたらボクたち住人もおたくの存在にすぐ気付くし、食べたい時に声掛けられるでしょ?」
ピザ屋さん「・・・」
オーブン「チーン♪」
変化が起きたのは、そんなやり取りから幾日か経ってからでした。
他の売り子さんの掛け声に混じって、「...ピッツアー」という頼りない声がかすかに聞こえたのです。最初は空耳かと思いました。それでタイミングを外してしまい、外に出た時にはもういませんでした。
でもその数日後、またもや「...ピッツアー」
間違いありません!カレン・ピザ屋さんはボクのリクエストに応えてくれたのです!
でもね、やっぱり食べたいときに食べれるってことになったら、「いつでも食べれる」と思っちゃって、結局食べないってのが人間の心理というものですよ。そうでしょ?
ごめんね、カレン・ピザ屋さん...いつか必ず食べてあげますからね... You may send a trackback for this article by using the following Trackback link
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